本『審判』(フランツ・カフカ)の感想

審判 (角川文庫クラシックス)

審判 (角川文庫クラシックス)

「審判」
フランツ・カフカ 1925年

ストーリー

  1. ある日、男が逮捕される
  2. 逮捕される謂れは男にはない
  3. 逮捕されるが、身体を拘束されることもなく仕事をして、日常生活は自由に過ごせる
  4. 裁判所には通う必要はある
  5. 弁護士を雇う
  6. 処刑される

不安

  • よくわからない罪で逮捕され処刑される。
  • 法の執行は粛々と進んでゆく。
  • 不明瞭な社会の仕組みだが、それを受け入れてしまう個人
  • こういった内容から「不安」というキーワードを感じる。

漠然とした不安は例えば、現代だと下のように言い換えれる

  • だいぶ前に店舗でレンタルした DVD/Blu-ray を返却していないかもしれない
    • そしてそれは部屋のどこかにある気がする
  • 外出先で、自宅のガスコンロの火を止めていない気がする
    • 自宅のドアの鍵もかけていない気がする

しかし、だいたい思い過ごしの杞憂である。少しそういった不安症の要素が自分にはある、と思い聞かせて生きてきた。

そういった人生に突如、不明瞭な不安を実現させて、見せつけてくる。「審判」はそんな話に思えた。

またその他のカフカの本(たとえば変身)も、"ある日訪れる"超現実な状況とそれを受け入れる(受け入れるしかない)不安を感じる。

カフカ

作者のカフカが、不安な気持ちになりやすい人だとすると、以下の話は納得しやすい。

ネクスト・ソサエティ ― 歴史が見たことのない未来がはじまる

ネクスト・ソサエティ ― 歴史が見たことのない未来がはじまる

 ところで、フランツ・カフカという名前を知っておられるか? オーストリアの偉大な作家だ。実は安全ヘルメットを発明したのが、そのカフカだった。彼は第一次対戦前に、ボヘミアモラビア(当時オーストリア領、のちチェコ)で労災補償関係の行政官だった。

P.F. ドラッカーネクスト・ソサエティ」から引用。

このエピソードが真実だとすると、カフカはその不安な気持ちを生かして、以下の2つを社会に残したことになる。

  • 人の命を守る安全ヘルメット
  • 人の心を豊かにする小説

その自身の特性が、違う分野でそれぞれ現代も残るほどの貢献をされたという点で、フランツ・カフカという人物は興味深い。