映画『あん』の感想
いい映画だった。
「あん」は餡子のあん。または五十音を人生になぞった、はじまりの「あ」とおわりの「ん」かもしれない。
どら焼き屋の雇われ店主(永瀬正敏)と、ハンセン病のおばあちゃん(樹木希林)、家出をした女子中学生(内田伽羅)がおもな登場人物。
この映画の特徴はみっつある。
一、話し言葉が聞こえづらい
二、風景がキレイ
三、負の感情の描写が深くなりすぎない
一
この映画の演出だと思うが、話し声が聞き取りづらい。何故かと思ったら、この映画は全体的に、声を張ってないのだ。
たとえば、店主とおばあちゃんが会話をするとき、お互いに相手に聞こえる程度の声量で話していて、カメラはまるでその日常生活を撮っているような雰囲気になる。
ゆえに会話が聞き取りづらい箇所もあるが、それがこの映画の暖かさに繋がっている感じがある。
二
キレイな風景。撮影は東村山市らしい。 この映画に出てくるシーンは、どら焼き屋、私鉄、樹木、川・・・静かでキレイだ。
なんとなくだが、東欧のような面影がある。出てくる電車は、西武国分寺線の黄色い車両だし、雰囲気がちょっとオシャレである。
三
負の感情の描き方だが、さっぱりしててよい。辛いことはあるのだが、その感情に身を置きすぎても物事はうまくいかないという感じである。
個人的には、おばあちゃんが小豆を丁寧に下ごしらえして、あんこをつくるシーンがとても良かった。小豆を見て、状況に合わせてゆっくりあんこをつくる。そういう風に人生もひとつずつ丁寧に生きれれば、素敵だろうと思う。
というわけで、あんは、最近みた邦画のなかでは、とても印象に残った。
ところで
どら焼き屋の主人役の永瀬正敏さんは声や、一見イカつく怖めな(実際は怖くない)ところが、原作者のドリアン助川さんと似ていると思うけど、そこは狙ったのかな?